日々の生活の中で、理由もなく気分が落ち込んだり、何しても楽しいと感じられなくなることはありませんか?
思い当たる症状がある場合は、もしかしたら「うつ病」の可能性があります。特に女性は、ホルモンバランスの影響やライフステージの変化に伴い、うつ病になりやすいと言われています。
うつ病は、単なる「気分の落ち込み」とは違い、持続的な意欲の喪失や気分の低下、死を考えるなどの症状があらわれ、日常生活に大きな悪影響を与える病気です。しかし、適切な治療やサポートを受けることで回復が望める病気でもあります。
本記事では、女性がうつ病になりやすい原因やそれに伴う症状、具体的な治療方法、予防策について解説します。
女性がうつ病になりやすい原因と伴う症状
うつ病の発症は、平成14年と平成29年のデータを比べると約1.8倍増加しており、男性よりも女性の方が約2倍発症しやすいと言われています。
男女の差は、女性特有の体に起こる変化やライフイベントによるストレスが大きく影響していると考えられています。
具体的には以下の原因が挙げられます。
- 月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)
- ホルモンバランスの乱れ
- 妊娠うつ
- 産後うつ
- 育児ストレス
- 更年期障害
ここでは、女性のうつ病の原因とそれに伴う症状について解説していきます。
月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)
月経前症候群(PMS)は、月経のおよそ3〜10日前にあらわれる身体的・精神的な不調の総称です。頭痛や腹痛、食欲の低下、イライラ、気分のゆううつ感、集中力の低下などが見られますが、月経が始まれば症状はなくなります。
しかし、月経前症候群が重症化し、日常生活に支障をきたす「月経前不快気分障害(PMDD)」に発展する場合があります。月経前不快気分障害では、強いイライラ感や気分の落ち込み、極端な疲労感、不安感、さらには対人関係のトラブルをも引き起こすため、うつ病のきっかけとなることがあります。
ホルモンバランスの乱れ
ホルモンバランスの乱れは、女性がうつ病を発症する大きな要因の一つです。月経周期や妊娠、出産後、さらには更年期など、女性特有のライフステージでホルモンが大きく変動し、精神的にも不安定になりやすいと言われています。
うつ病の発症に深く関わっていると考えられているのは「エストロゲン」と「プロゲステロン」です。
エストロゲンはセロトニンの分泌を促し、気分の安定を保ちますが、減少すると抑うつやイライラを引き起こすことがあります。得に、出産後や更年期で減少します。
一方、プロゲステロンは妊娠期や更年期で激しく変動し、食欲や不安感に影響するため、うつ病の発症リスクが高まります。
妊娠うつ
妊娠中はうつ病を発症しやすい時期です。妊娠中にうつ病になりやすいのは、パートナーや家族との関係性、予測してなかった妊娠などによるストレスが一因として考えられています。
産後うつと関連して発症することが多く、早い段階で適切なケアを受けることが大切です。
産後うつ
産後うつは、出産後に発症するうつ病のことです。慣れない育児の疲れや睡眠不足、赤ちゃんへの責任感などが重なることで発症しやすくなります。
特に、周囲のサポートが不足している場合や孤独を感じると、ストレスが増し、うつ症状があらわれやすくなるのが特徴です。
更年期障害
更年期障害は、閉経前後に起こる身体的・精神的な不調のことです。エストロゲンなどの女性ホルモンの減少により、セロトニンを始めとした脳内伝達物質の分泌に影響を与え、うつ症状を引き起こしやすくなります。
さらに、更年期障害が起こりやすい45〜55歳程度の時期は、子どもの巣立ちや介護の問題といったことが重なる時期でもあります。そのため、強いストレスを感じることで、うつ病の発症につながる場合があるわけです。
うつ病は心療内科の受診がおすすめ
うつ病の可能性がある場合の受診先としては、心療内科と精神科があります。
「精神科と心療内科の違い」
精神科 | 心療内科 | |
---|---|---|
特徴 | 心の病気や症状を専門として治療を行う | さまざまなストレスが要因で生じる体の不調を治療する |
よく見られる症状 | ・人前だと過剰に緊張する ・気分の浮き沈みが激しい ・ずっと落ち着かない ・集中できない ・よく不安になてしまう |
・動悸が続く ・寝ても疲労感が抜けない ・ふいに涙が出てしまう ・息苦しさを感じる ・肩こりが治らない ・めまいや耳鳴りがする |
心療内科と精神科には上記のような違いがあります。うつ病では、身体症状が引き起こされるため基本的に心療内科の受診がおすすめです。
心療内科と精神科は、どちらも受診後の流れはほとんど変わりません。
はじめに患者さんの現在の状態や、日常生活の中でどのようなことが起こっているかについて、話を聞くところから始まります。必要に応じて検査を行い、今の症状がどんな原因で引き起こされているのかを見極め、治療を開始します。
うつ病では、気になることがあったら一人で抱え込まずに、専門家の力を借りることが大切です。心療内科を受診するだけでも、心の負担が軽くなるはずです。もし「ちょっと疲れているな」「いつもと違うな」と感じたら、ぜひ心療内科で相談してみてください。
うつ病の診断基準
うつ病の診断基準には、アメリカ精神医学会が作成した「DSM‐V」と世界保健機関が提唱した「ICD‐10」という2つの基準が用いられます。
「DSM‐V(アメリカ精神医学会による基準)」
この基準では、以下の1または2のいずれかに加え、下記の9つの症状のうち、合計5つ以上の症状が、2週間以上続いていた場合にうつ病と診断されます。
さらに、下記症状が4つ該当する場合は「軽症」、5〜6つ該当する場合は「中等度」、7つ以上該当する場合は「重要」と分類されます。
- ほとんど毎日、抑うつ気分が続いている
- ほとんど毎日、物事への興味や喜びを感じない
- ほとんど毎日、食欲の低下または増加があり、著しい体重の減少または増加がある
- ほとんど毎日、不眠または過眠
- ほとんど毎日、イライラしたり落ち着きがなかったりする
- ほとんど毎日、身体がだるく、つかれやすいと感じる
- ほとんど毎日、自分に価値がないと感じたり、罪悪感を感じたりする
- ほとんど毎日、思考力や集中力が低下している
- 死について何度も考え、自傷や死ぬことを考える
「ICD-10(世界保健機関による基準)」
抑うつ気分・関心や喜びを感じなくなる・倦怠感や疲れやすさのうち、2つ以上が該当し、下記のうち2つ以上が2週間以上続いている場合にうつ病と診断されます。
- 自己評価と自信の低下
- 集中力と思考力の低下
- 過剰な自責感や罪悪感
- 将来に対する悲観的な思考
- 自傷や自殺を図るような思考または行動
- 睡眠障害
- 食欲の低下
診断の際には、医師が患者さんの生活環境や精神的な負担などを把握するために、ある程度、時間をかけて話を聞いてくれます。少しでも心配なことがあれば、診察を受ける際に聞いてみましょう。
うつ病の治療法
うつ病の治療法は、薬物療法と認知行動療法や対人関係療法などの精神療法が主です。
薬物療法
うつ病の治療には、主に抗うつ薬が用いられます。その中でも、よく使われているのが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬です。副作用が比較的少なく、安全性が高いため、多くのうつ病患者に使われています。
薬物療法では医師の指示に従い、定期的に服用を続けることが重要です。初めは少量から始め、副作用の有無を確認しつつ、必要に応じて服用量を徐々に増やしていくのが一般的な治療の進め方です。効果があらわれるまでには通常2週間から1ヵ月ほどかかるため、自己判断で服用量を変更することは避けてください。
さらに、薬による治療だけでなく、精神療法を組み合わせることで、治療効果が向上し、再発率が低下することが知られています。
ただし、妊娠中や授乳期の女性の場合、薬物療法には注意が必要です。授乳期には母乳を通じて赤ちゃんに薬が伝わる可能性があるため、医師と相談しながら安全な治療を選択しましょう。
認知行動療法
認知行動療法は、患者がもつ物事の捉え方や行動の改善を図り、ストレスの軽減を目指す治療法です。
薬物療法と併用することで、うつ症状の改善や再発防止にいっそうの効果が期待できます。薬剤でうつ病の症状を緩和しつつ、認知行動療法で患者自身が思考や行動の改善を図ることができるわけです。
薬の効果が出るまでの間や、妊娠・授乳中に薬の使用が制限される場合にも治療を行えるメリットもあります。
対人関係療法
対人関係療法は、うつ病治療において、人間関係の問題に焦点を当てる心理療法です。
対人トラブルがうつ病の原因になることもあるため、対人関係療法にてコミュニケーションの取り方や感情のコントロールなどのスキルを高めます。
薬物療法と併用することで、気分の落ち込みを軽減しながら、積極的に治療に取り組めるようになります。
女性のうつ病の予防策
女性のうつ病の予防には、ストレスの回避や解消に加え、周囲の協力、月経前不快気分障害の適切な治療が必要です。
感情を無理に抑えず、可能な限りストレスの軽減を図ることが大切になります。ただ、うつ病の症状は、自覚しやすいものと自覚しにくいものがあるため、周囲の人から「最近疲れてない?」などの声かけには耳を傾けるよう心がけておくとよいでしょう。
まとめ
女性がうつ病になりやすいのは、ホルモンバランスの変化や妊娠や出産などのライフイベントによるストレスが主に関わっています。
しかし、うつ病は適切な治療とケアを受けることで改善していくことができます。もし、少しでも不安を感じたら、早めに専門医に相談することが大切です。